マジメに考察

『イチローの引退会見』を今更、再考してみる、の巻。

ドジャースが、3年連続でナリーグ西地区優勝を決めました。

同地区2位のパドレスとの直接対決は、初戦を落としたものの残り2戦をものにしての優勝です。                                       ここでも大谷翔平選手、活躍しました!!初戦の負け方があまりにも良くなかったので、次戦以降の影響が心配されましたが、全ては杞憂に終わりました。特筆モノの秀逸さでした。野球の神様から愛されているのが、素人でも分かってしまう、そんな活躍ぶりだったように思います。

今季は、得点圏打率の低さを批判されていましたが、本当に大切なゲームでクラッチヒッターとなりました。これは良い選手とスーパースターを分ける要因の一つであると思います。

良い選手やスーパースターにはそうなるべく舞台が用意されて、人々の注目が最大限に集まる瞬間が与えられます。そこで結果を残すか、否かで選手の軌跡は大きく異なる気がします。これは野球だけでなく、全てのスポーツで『スーパースター』と呼ばれる選手に共通している点で、それが後世に伝説のゲーム、シーズンとして伝えられていきます。            大谷選手は、今季伝説になりそうなゲームをいくつも残し、記録以上にファンの記憶に残る活躍を見せてくれています。ホームゲームの最終戦、地元ファンの前で優勝を達成した、というのもやはり強烈な印象を残すことになったのではないでしょうか。

チームとしては優勝以上の結果は望めませんので、今後のファンの楽しみは、個々の推し選手の個人成績になります。プレイオフまでのレギュラーシーズン162試合終了時に大谷選手がどんな記録を残してくれるのでしょうか?                          現在の主な成績は、打率は.305、打点126、得点131、本塁打53、盗塁56、OPS1.030 となっています。

ステロイド選手全盛時代から23年ぶりに400塁打も達成しましたし、大谷選手への大きな期待は、三冠王を達成するか?そして現在53-56の本塁打/盗塁数の記録をどこまで伸ばすか、になりそうです。ここまで、本塁打王と打点王はほぼ確実視されています。ちょっと前までは2割8分台で、一番不安視されていた打率が、現首位打者のアラエス選手まで7厘差に迫っています。不可能であると思われていた首位打者の可能性が、再燃されてきました。  ここまでファンの期待の更に上をいく活躍を見せてくれているので、どうなるのか・・・ 一ファンに出来ることは何もないので、ファイナルまでの日々をこっそり祈ろうと思っています。

でも10月1日からの戦いが、本当の始まりです。レギュラーシーズンの活躍は一時的に忘れ去られます。選手はこの10月を戦うためにプレーを続けてきたのです。          レギュラーシーズンに大活躍をして、ポストシーズンで不振となった選手やチームの叩かれようは、あらゆるスポーツ、世界でも共通していて、それはそれはシビアです。        そこでも「神のような」大谷翔平選手を見たいですし、クラッチヒッターとしての地位を確立、『ミスターオクトーバー」の称号を今後得られるといいですね!!

となんだか大谷選手のことを書き出すと止まらなくなりますが、先日高校野球選抜とKOBE CHIBEN 戦で久々にイチロー選手のプレーを見ることができました。          背番号と同じ51歳目前となり、見た目は失礼ながら年相応となったイチロー選手ですが、強肩ぶりや圧倒的な技術の高さは現役時代さながらでした。

そんなことがあって、イチロー選手を再び思い出した次第なのですが、彼の引退会見でもコメントが頭を過りました。                             5年前のあの時点で、大谷翔平選手のホームラン王・サイヤング賞獲得に言及していたのは、本当にスゴイことだと今になって思います。

彼の会見で、一つ引っかかる点がありました。それは「現在の野球は頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある」といったニュアンスの発言をされたことです。         また「5年、10年はこの流れは止まらない」といったことまで加えられています。    ただコメントをよく見聞きしてみますと、それを指しているのが全世界の現代野球というよりもどうやらMLBの野球に対しての発言に思えてきます。                それは「野球の発祥はアメリカであり、その野球がそうなっていることに危機感を持っている人はいる」というコメントにつながるからです。                  またNPBの野球にも言及しており、「日本はアメリカに追従する必要はない、日本の野球は頭を使う面白い野球であって欲しい」とすらコメントしています。               これらの意味が当時、分からなかったのですが、疑問に思いつつも深く考えるようなことはありませんでした。                                ただなんとなくそのことを5年ぶりに思い出し、ちょっと考えてみました。

イチロー選手がプロとして活躍した約30年の間、一般的にスポーツ界が最も進化したものは何かを考えてみました。                             シンプルにそれは「情報」だと思います。これは野球に限らず、あらゆるスポーツでいえることだと思います。                                 技術や用具、トレーニングの変化もありますが、その根源は「情報」であり、それをどう取り扱うかでそれらは進化してきました。

例えばサッカーでは、戦略担当者がスタジアムを俯瞰できる位置で全選手のポジショニングやスプリント回数、スピード、走行距離などを把握、数値化しゲーム中でもチームの「穴」や強み弱みをリアルタイムで伝えることができるようになりました。野球でも試合中に選手の過去のデータをタブレットで確認したり、自分のフォームや速度等分析できる情報を瞬時に得られるようになっています。こんなことは30年前には見られなかった光景です。

ここにイチロー選手が言及したことへのヒントが隠されているような気がします。

フライボール革命、セイバーメトリクス・・・これらの言葉がここ数年、MLB経由でファンの耳にも届くようになりました。                          フライボール革命は、投げるボールと打つスイングスピードが高ければ、フライを打ち上げた方が安打や本塁打になる確率が高い、とする情報です。これはある意味、ゴロを否定しており、引っ張るバッティングを推奨しています。                     またセイバーメトリクスに関しては、野球を統計学的に分析し、あらゆる指標をデータ化してゲームに勝つための効率を高める情報を数値化したもの、になるかと思います。     これらは、ある意味では野球というスポーツの進化であるような気がします。野球が特に確率のスポーツであるのなら、何が問題なのでしょうか。

最近では死語になりつつありますが、MLBでも一時期、スモールベースボールという言葉が流行りました。それは強打や豪速球に頼らず、足の速さや犠打、守備力など基礎技術に基づいた細かい野球で確実に1点を取りに行く野球、と素人解釈しております。        第1回のWBCで日本が優勝を果たした時には、スモールベースボールの勝利だというアメリカの報道があったことも記憶しています。

ただ、アメリカのMLB球団で今もこうした戦い方をしているチームはあるのでしょうか?

スモールベースの代名詞にもなってしまいましたが、ここぞの場面でバントを選択するをMLBチームは本当に少ない気がします。                       前回、日本が優勝したWBCの決勝戦でも、アメリカは進塁よりも1本のヒット、1発のホームランに頼っていたように思います。                        足でかき回されるようなこともありませんでした。                  大会を通じて日本の方が、アメリカよりも多くのホームランを打ち、長打も多く、また投手の平均球速も速かったのはなんだかとても皮肉に感じます。

ただの短期決戦で、イチローのコメントを論じるのはかなり乱暴ですが、ここにもやはりヒントがあると思います。

戦術も関係すると思いますが、選手の「野球IQ」はかなり勝敗に影響を与えるのではないか、という点です。                                野球IQ」とは、おそらく状況判断に長けた選手のことを指す気がします。これも野球に限った話ではないですが、そのスポーツをよく知っている人に「・・・IQが高い」という使われ方をします。                                   様々な状況下においてどうすれば得点につながり、失点を防ぐことができるのか、どういう動きがチームから求められているのか、などはある程度データ化は可能だと思います。   ただ、それもイニング状況やカウント状況において変化が求められます。その変化にまで順応できるデータというものはなく、それこそ選手のIQの高さによるものなのではないでしょうか。                                       IQを高めるには、やはり経験の高さに加えてプレイヤーの質、考え方にもよると思います。一個人の能力をチームに反映させる戦い方をするのか、チームの一員としての個人の戦い方をするのか、この2つに1つな気がしますが、前者と後者で野球IQが高いのは圧倒的に後者だと考えます。しかしMLBで今圧倒的に主流なのは、前者だと思います。

イチロー選手が「頭を使わない野球」とはまさにこれを指しているのではない、と思います。                                       

つい数日前にも、ドジャース対パドレス戦の最終回、逆転のチャンスでトリプルプレーとなった試合がありました。                               あの状況では犠牲フライで1点を返すことができます。またライト方向に打つ技術とその意識があれば、かなり高い確率で犠打は成立していたのではないでしょうか。       またロハス選手が初球に見せたようにバントでも1点を取る確率はかなり高そうでした。相手投手は3連打されているので、ミスに付け込むスキは十分にあったからです。     でも結論、1点も取れずに終わってしまいました。自分の後にチームで一番良い打者である大谷選手が控えている、という状況だったにもかかわらずです。             ロハス選手のフルスイングは良い打球ではあったのですが、少なくとも1点を取りに行く打棒ではありませんでした。

話はまた逸れますが、ムーキーベッツ選手がホストとなり自チームや他チームの選手と対談する番組があります。

[On Base With Mookie Betts]という番組なのですが(YouTubeで見れます。回によっては日本語訳もあるので、興味ある方は是非)、最新のものが更新されていました。  今回の対談相手は、パドレス所属のタティースJr.選手ですが、先述したトリプルプレーにも言及されていることから、ナリーグ優勝の天王山を賭けた最中に収録されたものだと分かります。                                      それにも驚きでしたが、タティースJr.選手のコメントがとても印象的でした。ベッツ選手からの質問で、優勝を争うドジャースとパドレスの関係をどう思うか?という問いに、『野球IQが高くて才能ある選手間同士の戦いだから、とても楽しい』という旨の発言をしています。ベッツ選手もこの質問の前にはパドレスと戦うのは楽しい、とありました。2人とも説明不要のスーパースターです。                            タティースJr.選手の口から野球IQという言葉が出たのは、意外でもあり、なんだか僕の答え合わせに付き合ってくれたようでちょっと嬉しくなりました。

この2人がイチロー選手が感じた危機感と同じものを共有しているのかは分かりません。ただ、頭を使う野球を実践しており、それを楽しんでいることだけは伝わりました。

最強の9人を揃えたチーム戦略なのか、チームのために最善を尽くす9個人を揃えるのか、どちらの野球が面白くて強いのか。                         そんなことを思いながら残りのレギュラーシーズンとポストシーズンを見たいと思います。

最初のテーマに戻りますと、イチロー選手は「あと5年、10年はこの流れは止まらない(頭を使わない野球が続く)」とコメントしています。                   イチロー選手の引退から5年が経ちました。今のMLBをイチロー選手はどう思っているのか、ちょっと聞いてみたい気がします。

どんな分野でも技術や情報の革新は止まりません。でも人がそれを行なっている以上、そこに関わる人が状況や結果を大きく左右するのは間違いないと思います。         セイバーメトリクスは正常な野球の進化の中で生まれてきた統計学、と考えられるので、その最適化の過渡期なのかもしれません。イチロー選手の5年、10年という含みはそういう意味かもしれません。

誰よりもユニフォームを汚す、少年野球を見ている感覚でMLBを見せてくれる大谷翔平のような選手がもう少しMLBにも増えてくれるといいですね。               それこそ走って投げて打って、が野球というスポーツの原点であり本質なのですから。  その全てをゲームに出していこうよ、イチロー選手が言いたかったのは結局そういうことだと勝手に解釈しました。

正しいかどうかは別として、個人的にはすっきりできました。

というわけで皆様も良い1日を。ありがとうございました。