職場で知り合った若い青年となぜか突然、「無性に食べたくなるもの」というトピックで話をする機会があった。僕は50代、彼は平成後期生まれの20代である。
僕はこういう全く生産性の無い話を誰かとするのが好きだ。そしてこういうトピックこそ、マジメに話したいという癖がある。
青年は「そうですねぇ・・・」と言った後、あまり時間をかけることなく結論を出した。
「マックのポテトかも知れないですね・・・うん、それだな」
『へぇ、そっか・・・でもハンバーガーじゃないんだ?』
「ハンバーガーではないっすね。ポテトです」
『んーとじゃあオレはねぇ・・・』
僕の頭にパッと浮かんだのは、TKG、お茶漬け、そしてチキンラーメンである。
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そうなった理由について少し加筆しておくと、僕はちょっと前まで出張を常とする生活を送っていた。日本全国、色んなところを回らせて貰っていたのだが、出張の醍醐味は食事である。
訪れる機会があまり無い土地に行くので、そこそこ贅沢な食事が続く。それが続いた頃にやっと家に戻るのだが、そんな時こそ素朴なものを食べたくなるのだ。
先述の3つのうちどれかを出張帰りに僕は必ず食べていたのだ。
『オレさ、3つあるんだけど』
「いや、ここは一つに絞らないとダメですよ」
『そっか、うーんちょっと考えてみる』
青年からダメだしを食らったので、再度考えてみる。
TKGとお茶漬けに共通しているのは、お米が含まれるということだ。出張帰りが長くなると帰った時にまずやらないといけないのは、大量の洗濯と家の掃除である。
時と場合にはよるけれどそんな時に米を焚く気力みたいなものが無いこともあった。
もちろんパックのお米でも代用出来るが、それらを食そうとした場合、卵や漬物などをスーパーに買いに行かねばならない。
その点、チキンラーメンは部屋にストックさえあればいつでも食べられる。鍋で煮た方がウマいけれど、それすら面倒な時は、湯を注ぐだけで良いのである。それに別にネギや卵が無くてもチキンラーメンは充分にウマいのだ。
『あ、決まった。オレはね、チキンラーメン』
「え、なんか意外っすね」
『そうかな?オレらの世代はチキラー信者多いと思うよ。マックのポテトはオレらの世代では多分無いと思う』
「そんなもんスカねぇ・・・でもチキンラーメンってあんまウマく無くないっすか?」
『いやウマいと思うけど・・・逆にZ世代は袋ラーメンだと何が好きなの?』
「うーん、あんま袋ラーメン食わないけど・・・ズバーンすかね」
『なるほど、世代間が出たな』
とこんな会話になった。なぜズバーンが好きなのか、と尋ねたところ「だって本物のラーメンに味が近くて、ウマいからっすよ。チキンラーメンは不味くは無いけど、クセになるほどでは無いですね」ときた。
自分でも意外だったけど、僕はチキンラーメンが少し貶められたような気がしてアツくなってしまった。そして以下のようなことを青年に説いていた。
まず【ウマい】と【好き】は別物の感情であり、それらをわざわざ一緒にする必要性は無いんじゃないか、という点である。
ポテトだって、例えば有名なステーキハウスとかで肉に添えられてるものとマックのものとでは、絶対前者の方がウマいはずでしょ。マックのポテトってあれ冷凍食品でしょ? だけどそれでも好きなのは、ちゃんと理由があるんだよ、と説く。 青年、確かに、と同意する。
青年にもマックのポテトで良い思い出があるんじゃ無い?例えば、高校生の時、友達とマックでダベってポテトだけで何時間も店に居座ったりしなかった?
青年「まさに」と即答。
多分ね、好きなものには歴史というか・・・その人にしか無い思い出みたいなものと紐付いている場合があると思うんだよ。
ここまで言って僕は色んなことが一瞬で脳裏を逡巡した。
ガキの頃、母親が病気で家にいない時に自分で初めてチキラーを作った時のこと。
貧乏学生の宅飲みはつまみも無かったけど、チキンラーメンを潰して皆でそれをボリボリしながら飲んだこと。
凍えるようなキャンプの中で食ったチキンラーメンに一同救われたこと。
海外生活でホームシックになりかけた時にチキンラーメンを食って元気が出たこと・・・。
そんなことを思い出した。きっと思い出そうとしたらもっとたくさん出てくる。
僕にとっては、優しくて温かくなるような、そんな思い出がチキンラーメンにはあるのだ。
そんな話を青年にしたら、彼もマックポテトに纏わる彼の思い出を話してくれた。
大好きな彼女と放課後にマックポテトだけを齧りながら、何時間も話をしたことや、海外旅行で食が合わない時もマックのポテトに救われた、こんなエピソードが出てきた。
彼も結構なアツさでマックのポテトを語ってくれる。
よーく考えるとくだらないけど、こんな話は話すのも聞くのも楽しい。
その後僕たちは、【ウマい】と【好き】について更に深堀っていった。
『だけど何でマックなんだろ?モスとかBKとか他にもあったでしょ?』
「BKはそもそも店舗がなかったですよ(苦笑)・・・うーんでもマックでしたね」
『だから、何でなの?』
「うーん、でも何でチキンラーメンなんですか?他にもあったでしょ?理由、説明できます?」
『確かに・・・』
「『うーん・・・」』
お互い考え込んでしまったが、突然彼が口を開いた。
「安心感・・・みたいなものかもしれませんね・・・。もしモスしかなかったらモス派になってたかもしれませんけど、マックが一番店に入りやすかったですし。ポテトもそうなんですけど、マックはなんか店の雰囲気も含めて安心感があるんですよ。上手く説明できないんですけど・・・。 それにもしかして今食べたらモスの方がウマい、って感じるかもしれませんが僕はポテトはもうマックだけでいいや、って思ってます」
『じゃあ他のチェーンへの冒険はしない、ってこと?』
「はい、だってマックで充分ですし、他はマックに勝てないですから」
『なるほど・・・』
確かにそうなのかもしれない。チキンラーメン以上にハマるインスタントラーメンは現時点でもあるかもしれないが、僕も他のものを探して食べようという気はない。それにどうでも良い話を加えると、今回袋ラーメンの話をしているけれど僕はチキンラーメンを作っている日清食品に対する安心感や信頼度もかなり深いものがある。好きなカップ麺もやはり、日清食品のカップヌードルなのだ。
彼の言っていることは、かなり的を射ているのかもしれない。
そんな話をしている時、ビジネス雑誌で読んだ記事のことを思い出した。
それはサイゼリアのビジネス戦略、みたいなものだった。低価格帯の商品を多く揃えて、味をあえてコスパ以上のものにしない、というものだ。コスパ以上の味を追求し過ぎてしまうと顧客はそれに満足して、頻繁にまた来ようとはならず、ヘビーユーザー層獲得には繋がらない、というような意見だった。
そのことを彼に話したら、「まさにそうかも、っすね。マックのポテトも高過ぎないし、なんかバランスがいいんですよ。味付けなのか分かんないんですけど、飽きないんですよ。たくさん食ってもまた食べたくなるんですよね・・・麻薬でも入ってるのかな(笑)」
話している自分自身も納得してしまったのだが、チキンラーメンもまさにそうなのである。
麺の食感にしても実際のラーメンのモチモチ感は皆無である。でも伸びてもウマいと感じさせてくれるし、スープの味もしつこくないので飽きない。そもそもあの匂いがたまらない。
値段も安いし、色んな面でのバランスがとてつもなく良い気はするのだ。
僕らは小一時間そんな話をした。彼がどう感じたかは分からないけど、僕にとってはとても楽しい時間となった。
別れ際、彼は「今日はマックに行ってポテト食べます!」と言った。
僕は正直、その日は別のものを食べたい気分だったけど、結局スーパーに入ったらチキンラーメンが食べたくなり、そうしてしまった。
5袋入りのものを買ったのであと4袋、ストックすることになる。
その時に今日の会話のことをなんとなく思い出した。
それは〔安心感〕である。食事を食べ損なって帰ってきても、チキンラーメンがあればコンビニやスーパーに深夜に買いに行かなくても良い。お湯さえ注げば、とりあえず空腹を満たすことができる。まぁ冷凍食品でも同様の安心を得られるかもしれないが、この〔安心感〕における信頼度は、なかなかチキンラーメンを上回るものは無さそうだな・・・とひとり思ってしまった。
今後も毎日チキンラーメンを食べることはないだろうけど、僕は今後もチキンラーメンを愛していくのである。しかし、チキンラーメンの話だけで、あと10回分くらいは書けそうな気がする・・・。なんか自分のチキンラーメン愛がとても深いことを知ってしまった・・・。
というわけで、だらだら書いた割に、オチらしいものが全くないエンディングになりそうだが、これで良いのだ。
僕は今後もこうした読んだ人が何の情報も得られない、暇つぶしでしかなかったようなことを書きたいと思う。
おっさん、アンタの書いたこと分かるぜ、と感じてくれた方だけ、たまに暇つぶしでこのサイトを訪れて欲しいものである。本当に何も得られないが、だらだら書いてるので少なくとも時間の浪費だけは保証できる。
というわけでここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
なんかチキンラーメンが食べたくなったぜ!と思ってくだされば、ちょっと嬉しいです。
では良い1日をお過ごしくださいませ。
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